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ハシゴではなく「ジャングルジム」を登れ!悩み多きミドル世代が転職にあたって考えるべきこと

ハシゴではなく「ジャングルジム」を登れ!悩み多きミドル世代が転職にあたって考えるべきこと

“転職”に対し、年収アップやスキルアップをイメージする人は少なくないでしょう。「もっと上を目指すこと」が正解だとされがちですが、それって本当に、自分自身にとっての正解なのでしょうか?

まだまだ長く続いていく人生、「なんとなく」だけで働き続けるのはもったいない! 今こそ、これから先の未来を創っていくために必要なことを、立ち止まって考えてみませんか?

『転職2.0』の著者であり、新たな転職の価値観や方法論をさまざまな形で伝えてきた元LinkedIn日本代表の村上臣さんに、「大転職時代に、ミドル世代が本当に考えるべきこと」についてお話を伺いました。

キャリアは「10年計画」で考える

――結婚、育児、介護など、ライフイベントが発生しやすい30~40代。転職を検討する際に、まず考えるべきポイントは何でしょう?

どうしても年収を意識してしまいがちですが、まずは自分のキャリアを10年という長いスパンで考えてみてください。「10年後、どういう自分になりたいか」というビジョンを描いてみることで、年収以外に実現したいこともクリアに見えてくると思います。

年収が上がればお金の面では心配なくなるかもしれないですが、人生にとって総合的にプラスかというと、もっといろいろな条件が絡んできますよね。家庭の事情も働き方も時期によって変化していくものですし「仕事も含む全ての生活」を大局的に考えることが必要です。

結局のところ、人生のゴールとは「幸せに生きて死ぬこと」ですよね。10年後のために、今このときの自分が何を重視するのか?を大切にし続けていくことが重要だと思っています。

 

――10年後と言われてもなかなか想像しにくいのですが、具体的にはどんなレベルで考えればいいのでしょうか?

僕の場合、キャリアのスタートはITエンジニアだったので、20代では「エンジニアとしてどうやってキャリアを築いていくか」が最優先でした。PM(プロジェクトマネージャー)やディレクターを目指して働き始めましたね。

実際に20代でマネージャー、30代で部長や執行役員という立場で、Yahoo! JAPANのプロダクトをPCからスマホに移行するプロジェクトをリードしていく経験ができました。40歳目前で日本を代表するITサービスのモバイルシフトを完遂したことで、エンジニアとして一定やり切ったと感じたんですよね。

じゃあ、次は何をしようか? 10年後にどんな自分になっていたいか? と考えたとき、インターネットが大好きでエンジニアとなり、これまでさまざまな経験を重ねていたものの「シリコンバレーの仕事はしていないな」とふと気づきました。

では、40代では「外資系グローバル企業で全世界に通用するプロダクトに携わること」をテーマにチャレンジしよう、と。そんな時に舞い込んできたのが、LinkedInの日本代表のポジションだったんです。

 

――なるほど、「どんな自分になりたいか」。まずはざっくりでいいんですね。

そうです。大事なのは、10年ごとに自分なりの大きなテーマを持つこと。すると、その実現に必要なキャリアオプションが見えてくるわけです。

10年スパンで見た「なりたい自分」から逆算的に考えてみると、次に必要なことが明確になり、目指すキャリアを計画的に実現していくことができると思います。

転職で成功の鍵は「1つに絞る」こと

――それこそ10年前と比較すると、転職という選択肢はかなり一般的になったように感じます。2023年度の統計を見ると、転職希望者は初めて1000万人を超えたものの、転職者の実数は328万人にとどまっています(総務省「労働力調査」2023年平均結果)。

体感的にも、この4,5年で「転職したいと思っているけれど、転職しない」という層は増えている気がします。転職エージェントなどに登録している人の中であっても、実際に転職する人は2割程度のようです。

僕はこうした人々のことを“転職モヤモヤ層”と呼んでいるのですが、こうしたモヤモヤを解消するためには、転職活動のプロセスを進めることが必要になります。

 

――まずは具体的に動いてみるということですね。

やっぱり、漠然と考えているだけではモヤモヤはクリアにならないですから。

そして大事なことは……今回の転職であなたが最も実現したいことを1つだけに絞ってください。スキル、経験、お金、働き方など、いろいろあるなかで、何を最も重要視するのか。

 

――1つだけ!? 正直、もう少し欲張りたいのですが……。

ダメです、2つも3つもダメ! ここは厳しく1つだけに絞ってください!

知人に相談を受けるときも同じことを言うのですが、だいたいみなさん「えー、そんなの選べないよ!」とその場で頭を抱えちゃいますね(笑)。

 

――私だけではなくてよかったです(笑)でも、なぜ1つに絞る必要があるのでしょうか?

現実問題、一度の転職で実現できることは、1つか2つ程度です。3つも4つも同時に叶えようとしても、そこにマッチする会社はそう簡単には見つからない。

キャリアは一生かけて作っていくものですから、1度の転職で全てを一気に何とかしようと思わず、まずは1つに絞りましょう。「今回の転職では、これを実現できれば成功」という考え方でいいんです。この先、転職するたびにそれを積み重ねていけば連続性が出てきますし、それによって3つ目、4つ目の実現したいことも叶えていくことができるはずです。

絞りきれない! と思っても、とりあえず1つ選んでみることで「次にどうするのか、どう動くのか」がクリアになっていくはずです。

優先順位をはっきりさせることで、それを叶えられる求人があるかチェックしてみることもできますし、「これは今回の転職で実現したいこととは違う」という判断もできるようになります。

今は売り手市場で、転職の選択肢そのものが増えています。もちろん求職者としてメリットは大きいのですが、たくさんの求人の中から自分に合うものを選定すること自体が難しくなっている面もあります。

当たり前ですが、「どの会社でもいいや」となってしまったら、なかなか転職まで至りません。実現したいことを1つに絞っておけば、どの会社を選ぶことが自分のキャリアにおいて必要なのかを判断しやすくなるのです。

「生涯1社で働く」は幻想 キャリアはハシゴではなく“ジャングルジム”

――複数回の転職を前提に、長期的に考えるということですね。

「生涯1社で働くこと」はすでに幻想となったと言っていい状況です。30代でも定年まで今の会社で働くつもりの人を見かけますが、ほぼ確実にその未来はないと思ったほうがいいでしょう。自分で自分の仕事を主体的に選んでいかなくては、この先のキャリアは難しいと思います。

というのも、終身雇用の時代は、会社側が個々のキャリアを考えてくれていたんですよね。上司がジョブローテーションを組んだり、人事が異動を経験させたりするので、それに乗っかるだけで良きに計らってもらえたわけです。

しかし、それがなくなっていく以上、自分で考えるしかありません。「転職を考える」とは、「人生を考える」こと。自分で自分のキャリアをグリップしなければ、漂流してしまうことになるので、真剣に考える必要がありますね。

これまでの日本の組織のキャリアは、1社の中でハシゴを縦に登っていく出世競争によって築く世界でした。しかし、終身雇用が当たり前ではなくなった以上、それも幻想です。

もはや「仕事=人生」ではありませんし、今の自分が望む生活とのバランスや仕事を通じてやりたいことなども含めて、どんな働き方がしたいのかを都度都度考えることが大切です。

例えば、「子どもが生まれたばかりだから、しばらくは育児に比重を置いてリモートワークで働きたい」という人もいれば、「今はまだ身軽に動けるから、将来のためにハードワークで経験・スキルを積みたい」という人もいるでしょう。

僕は、キャリアとは“ジャングルジム”だと思っています。幼い頃を思い出すと、いち早くてっぺんに登ろうとする子もいれば、登らずに中に入ってそこから外の世界を眺めている子もいましたよね?

縦に登ることしかできないハシゴと違い、ジャングルジムでは横にも斜めにも好きなように動けますし、どう楽しむのかは個々によって違います。キャリア形成も同じで、縦に上がっていくだけじゃなく、いろんな登り方ができる。

これからの時代は、そういう視点を持つことが必要になると思いますし、それによって、もっと自分の可能性を広げたり、人生を楽しんだりできるようになるはずです。

忙しくて考えられない!長期休暇に整理しよう

――考えるべきことがかなりクリアになってきました。とはいえ、日々仕事にプライベートに忙しいミドル世代は、なかなか長期的なキャリアなんて考えられないよ! という方も多いのでは。

日本の場合、年末年始の休暇が長いので、そのタイミングで考えてみるのはいかがでしょう? 5月の連休でもいいですが、1月に転職活動を進めれば、年度の変わり目である4月から新しいスタートを切ることもできます。

実家に帰ったり、旅行に出かけたり、日常とは違うものに触れやすい時期でもあるため、キャリアや人生について考えるきっかけも得やすいタイミングだと思います。例えば、地元の昔の友人に会い、子どもができた話を聞いて、今後のライフプランをあらためて考える……なんてケースもありますよね。

もうひとつ、年末年始にぜひ取り組んでほしいのは、職務経歴書のアップデートです。

 

――職務経歴書? 面接のためのものだと思っていました。

必要になるシーンはそうなのですが、いざ「職務経歴書を提出してください」と言われたところで、すぐにつくるのは結構大変です。数年前の業務について思い出して書こうとしても、人は案外忘れちゃっているんですよね。

 

――たしかに。職務経歴書をしっかり書き込むハードルが意外に高く、転職活動そのものを先延ばしにしてしまうケースは周囲でも聞く気がします。

LinkedInは海外ではまさにそういうツールとして使われているのですが、「職務経歴書は常にアップデートし続けるもの」と認識しておきましょう。年末のタイミングで通知表的な感覚で書き残しておくことがおすすめです。

この1年の自分について振り返り、今年できたこと、できなかったことを書き出すと、「来年はこれを頑張ろう」「このスキルを伸ばしたいな」など、やるべきことがクリアになり、次が見えやすくなります。これをもとに職務経歴書をアップデートするとスムーズです。

転職のチャンスは思わぬ瞬間に、思わぬ人からもたらされることも。手元にいつでも最新版があれば、すぐに動き出すことができます。

転職エージェントとつながりを持つことのメリットとは?

――情報収集におすすめの方法はありますか?

私は、過去にお世話になった転職エージェントの方とつながりを持ち続け、数人と定期的にお話しするようにしています。最近の市況をフラットに聞くだけでも学びになりますよ。

職務経歴や希望条件などをすでに知ってくれているので、会話する中でどういった業界なら“今の自分”に対するニーズがあるのか、どの程度の市場価値なのかなどを客観的に把握することができます。

例えば、現職の年収が適正な金額なのか、それとも相場より安いのか高いのかという肌感覚についても教えてもらったり、今のスキルを生かして年収アップが望める業界・領域、未経験でもチャレンジできそうな企業などについてアドバイスをもらったり。自分の可能性を探るために役立つはずです。

 

――自分が今取り組んでいるプロジェクトや、身につけたスキルについて伝えておくと、条件に合う求人があったときに声をかけてもらえるかもしれませんよね。

まさにその通りで、声をかけてもらえる人になることは大事です。

また、その人の「強み」は市場感によっても変化していきます。転職市場の最前線を知っている転職エージェントと話してみることで、思いもかけない業界にニーズがあることに気づけるかもしれません。

例えば、今のIT業界では、一般向けに技術トレンドをわかりやすく伝える「エバンジェリスト」や専門知識を使って商談をサポートする「セールスエンジニア」など、エンジニアのキャリアを生かした新しい職種が注目されています。

他にも、ガバナンス強化に向かう企業が増えたことで、コーポレート職の需要が高まるなど、従来の職種にはなかったものや、融合的な知識が求められるものも増えています。

世の中にはまだ出てきていない仕事やニーズ、採用のトレンドについて直接聞くことは長期的なキャリアの可能性を考えるためにも役立ちますよ。

――なるほど。今までやってきた仕事の延長で考えてもなかなか出てきませんもんね。

特に、社内にこもって仕事をしている職種の場合は、自分の経験・スキルに対する新しいニーズに気付けないもの。「自分のことは自分自身が一番わかっていない」なんてこともありますし、外部の人々と触れ合って話すことで、世の中の動きをキャッチしやすくなります。

加えて、「今は特にニーズがない」というロールや職種の場合でも、それに合う求人が出てきたときに声がかかるケースも少なくありません。

だからこそ、転職活動は「常にしている」のが正しいんだと思います。チャンスを逃さないためにも、常にアンテナを張っておくことが大事ですね。

その意味では、大人の友達ネットワークをつくって、ゆるいつながりを増やす努力もするといいですね。

“大人の友達ネットワーク”を作り、ゆるいつながりを持つ

――友達? 意外な言葉でした。

自分の経験を振り返っても、社外取締役などのオファーは人とのゆるいつながり経由でやってきましたし、同業界の友人から「今の転職先で、こういうロールのポストが出ているけど、どう?」と連絡がくることもあります。

面白いのは、いつも会っている仕事仲間や友人などは、お互いに知り過ぎていたり、近い環境にいたりするので、なかなか転職の話になりにくい。少し距離が離れている人物のほうがキャリアにつながるような機会をもたらしてくれると感じます。

 

――少し距離が離れている人こそ、というのは新鮮な視点です。大人になると、なかなか友達をつくるのも難しいような……。

僕は、日頃から誰に対しても「面白い人がいたら紹介してほしい」と伝えてランチやお茶をするようにしていますね。

ある時期によくやっていたのは、4人くらいの仲間とのランチ会です。仕事に関係なく、お互いがそのときに面白いと思っている友達を連れてきてワイワイおしゃべりする。それだけで新しいネットワークが3つ増えます。

飲み会ではなくランチにするのもポイントかもしれません。1~2時間でサクッと交流できますし、夜はなかなか都合が合いにくい人もランチなら、ということも多いですよ。

ほかにも、子どもが小さい頃には保護者同士のつながりを積極的に持つようにしていました。週末にパパだけで集まって子どもをキャンプに連れていく「パパ会」も主催していましたね。

趣味から友人知人を増やすのもいいですよね。僕は数年前から茶道を始めたので、この習い事でもこれまでとはまた違う層の人々とのつながりも広がっています。

 

――ランチ会のアイデア、まねしたいです! 出会った人とその場限りにならないために心がけていることはありますか?

自分が今、興味を持っていることや、将来やりたいことなどを積極的に周囲に伝えるといいと思います。

AI領域や働き方改革など、「このあたりを学んでいて」「こういう点が面白いなと考えていて」など興味関心の背景をさまざまなところで具体的に話していると、それを聞いた誰かのネットワークに引っかかるものなんですよね。

「同じようなことを考えている人がいるから会わせたい」「そこに関係する人がいるからお茶でも飲もう」など、新しい出会いが生まれることは少なくないと感じます。

『転職2.0』では、SNSで発信する方法を書きましたが考え方は同じで、対面でも自分の思いや考えを積極的に発信することが大事。自分で考えているだけでは周囲にはあなたがどんな人か伝わりませんし、口に出すことで意外な人物が機会をもたらしてくれる可能性もありますよ。

(構成:上野真理子 編集:山崎春奈 写真:工藤朋子 

 


プロフィール

村上 臣(むらかみ しん)

青山学院大学理工学部物理学科卒業。大学在学中に仲間とともに有限会社「電脳隊」を設立。2000年8月、株式会社ピー・アイ・エムとヤフー株式会社の合併に伴いヤフー株式会社入社。2011年に一度退職した後、再び2012年4月からヤフーの執行役員兼CMOとして、モバイル事業の企画戦略を担当。2017年11月に約8億人が利用するビジネス特化型ネットワークのLinkedIn(リンクトイン)日本代表に就任。株式会社ポピンズ 社外取締役ほか複数のスタートアップの戦略・技術顧問も務める。著書に『転職2.0』など。