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「仕事=人生」の時代はもう終わり。ワークもライフも充実させる、転職賢者の教え

「仕事=人生」の時代はもう終わり。ワークもライフも充実させる、転職賢者の教え

「年収は大事だけれど、仕事だけの人生はちょっと違う気がする」
「家族との時間、趣味の時間など、プライベートも充実させたい」
「でも、そこにはやっぱりお金が必要で、切っても切れない……」

大きなプロジェクトの責任者を任されたり、管理職として後輩の育成を担ったり、「自分のやりたいこと」だけではなく「組織としてやるべきこと」の比重も高まってくる30~40代のミドル世代。

長期的なキャリアプランを考えようにも、会社のこと、家族のこと、お金のことが複雑に絡んできて、若かった頃のように勢いと熱意でキャリアチェンジするのは難しくなっている――そんな風に感じる人も多いのではないでしょうか。

『転職2.0』の著者であり、新たな転職の価値観や方法論をさまざまな形で伝えてきた元LinkedIn日本代表の村上臣さんは、「ワーク・ライフ・バランス」ならぬ「ワーク・ライフ・インテグレーション」(仕事と生活の融合)を意識しているそう。

仕事とプライベートのどちらも大切にして「自分らしい働き方」、ひいては「自分らしい生き方」をはっきりさせるためには、どのような準備や考え方が必要になるのでしょうか? 前編に続き、お話を聞きました。

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育児、介護、仕事の責任――ミドル世代の悩みはさまざま

――いわゆる「若手」とされる20代の転職と比べると、ミドル世代は考えることや優先順位も変わってきますよね。

転職相談を受けていても、ライフステージの変化にまつわる悩みは増えている実感がありますね。僕の職場でも「地方で暮らす両親の介護が必要になった、リモートワークに対応できないか」という相談がありましたし、子育てとの両立に悩む人も身近にいます。

ミドル世代の場合、自分のやりたいことだけではなく、守るものや背負うものが増えてくるので、転職して環境を変えること自体もなかなか難しくなりますよね。仕事の基盤をまたゼロから作っていかなくてはならないことを考えると、どうしても腰が重くなってしまう……そんな気持ちもわかります。

30~40代は、大きなプロジェクトを任されたり、管理職として期待されたりする時期。全力で頑張っている人こそ、過労やプレッシャーでメンタルを崩してしまうケースも少なくないのではと思います。

 

――村上さんご自身も、育休やメンタルヘルス由来の休職でキャリアの中断、ペースダウンを経験してきたと伺いました。

僕が育休を取得した当時は、男性が育児休業を取得できる制度はまだなく、溜めておいた1ヶ月分の有休をまとめて使いました。なので、シンプルに「長期休暇で育児をしていた」感じですね。今は男性育休への理解も進んでいますが、当時は周りには誰もいなかったですし、不安がなかったかというと嘘になりますね。

うつ病になったのは、仕事が忙しすぎて睡眠をろくに取れなかった時期。休職を経て、以前と同じ労働時間では続かないと働き方を見直しました。この数年だと、リモートワークしながら介護と仕事を両立していた時期もあります。いわゆる「ビジネスケアラー」ですね。

……こうして振り返るともう、予想外なことばかりですね。全然「順調なキャリア」ではありません。

 

――でも、もし村上さんが上司だったら、“まっすぐなキャリアではないこと”をオープンにしてくれていると個人的なことも相談しやすいなと思いました。

それはたしかに。出産もそうですが、特に介護の問題は突然生じるもの。自分ではタイミングはまったくコントロールできません。

メンタルの不調についても、僕は「自分はそうならないタイプだろう、忙しくても平気だろう」と頑なに思い込んでいたんです。実際に経験してみると、誰しもタイミング次第でそうなるものだと身をもって痛感しました。

なので、キャリアと私生活のバランスを取らねばならない問題に直面している人たちの大変さは非常に理解できますし、自分自身の経験をもとに、彼らが仕事を続けていくために必要なサポートやアドバイスをしようと思っています。

村上臣

ピンチをネガティブに捉えない 誰もが必要な“プランB”

――仕事が好き、仕事にやりがいを感じている人こそ、プライベートの事情で100%全力投球できなくなることをネガティブに捉えてしまうのではと思うのですが、どう考え直したらいいですか?

キャリアチェンジを強いられる予期せぬ問題が起きたとき、困惑や焦りを感じてしまうことは当然あると思います。でも、いったん考えてみてほしいんです、「結局のところ、それって自分のキャリアを自分で運転してないってことじゃないか?」と。

キャリアを中断してしまったり、仕事量をセーブするような転職を選んだりすると、どうしても巻き込まれた、事故にあったように考えてしまいがちです。

でも、そんなときでもハンドルは自分で握れる。「大変な状況に陥っても、常にいろんな道がある」と主体的に考えることができれば、気持ちも楽になるはずです。

ぶっちゃけ、理想のキャリアを走り続ける“人生のプランA”をいくら綿密に練り上げたところで、この先、何が起きるかわからないですよね。フルパワーで働けなくなることも想定した“プランB”を用意しておくことは男女も年齢も問わず常に大切だと思います。

やりたいことを思い描くのはもちろん大事ですが、「自分にはこの道しかない」と思い詰めると、時に選択肢を狭めてしまいます。「こっちも行ける」「こんな方法もある」とポジティブに捉えてほしいですね。

 

――「仕方なくこの道になってしまった」と卑屈に捉えないのは大事ですね。

自分で発想を広げるのが難しければ、今後想定されるライフステージの変化も含めて、転職エージェントにラフに相談するのもありだと思います。「だったら、こんな求人やこんな働き方がありますよ」と教えてもらえれば「いろんな道があるのか!じゃあ、いざとなったら転職する方法もあるな」など、広い視野で考えられますよね。

余力があるうちに、パラレルワークや副業などを経験しておくこともおすすめです。本業とは別の場所で、自分の経験やスキルをちゃんと認めてもらえることがわかっていれば、「まぁ会社を辞めることになっても、こっちで稼げれば何とかなるか」などと思えるでしょう。今の会社・働き方以外でお金を稼げる道があることを理解しているだけでも、気持ちの面でかなり違ってくるはずです。

転職やお金の不安は紙に書き出そう

ーー「転職したい気持ちはあるけど、考えることが多すぎて一歩踏み出せない」という方も多いと思うのですが、どうアドバイスしたいですか?

あなたが動けない理由がなぜかと言えば端的に、不安なことがあるから、ですよね。

まずは「一体、自分は何が不安なのか」を書き出してみることが大事です。頭で考えているだけでは堂々巡りになってしまい、モヤモヤしたままの状態が続いてしまいます。

転職先でうまくやっていけるのか、年収は下がらないのか、期待に応えられるのか――不安に思うことはいろいろとあるでしょう。いったん頭の中をそのまま書き出して整理してみることで、どの程度の不安要素があるのかを客観的に把握できます。

ひとつずつ書き出してみれば「実はそれほど多くないかも?」と気付くはずです。要因がはっきりしたら、転職活動のプロセスでそれについて深く確認したり、誰かに話して意見を仰いだりしてみることもできます。解像度を上げていくうちに「意外と心配することないんじゃない?」となっていくものです。

 

――特に金銭面に関しては、長期的な計画が必要かつ額も大きく、「よくわからないけど、なんとなく不安」な人も多い気がします。具体的に確認しておくべきことはありますか?

「家を買うか?」「子どもは欲しいか?」など、大きくお金を動かす意思決定のタイミングがどのくらいの時期になるのかはなんとなく考えておくことが大事だと思います。すでにパートナーがいる場合は、早いうちからきちんと相談しましょう。

もう少し細かいことでいうと、家を買う場合は、転職してから1年間はローンを組めない、などは注意ですかね。大手企業で働いているなら、大きくキャリアを変える前に家を買うことをおすすめしています。

あとは、転職エージェントを活用しようという話にも通じますが、お金のことに関しても積極的かつ早めにプロに相談するのがおすすめです。なんとなく抱えている不安には、ファイナンシャルプランナー(FP)などに相談してみることで解消できるものも多いと思います。

何より、FPなどのお金のプロは、一般的にどのようなケースがあるのかをたくさん知っているはず。「あなたと同じような条件の人には、こんなパターンがある」「数年後はこのあたりも考えなくてはいけないかも」などの事例や見通しを教えてくれるでしょう。

具体的なアドバイスに触れることで想像力もふくらみますし、自分では思いつかなかった懸念点や選択肢にも目が向きます。複数のFPに相談して、考え方が合う人を探すのもいいと思います。

年代や職種にもよりますが、多くの場合、今の市場環境では、年収を維持したまま職を変えること自体は、意外と難しい話ではありません。30〜40代になってくるとどうしてもお金のプレッシャーもありますが、自分が思うより心配する必要はないかもしれませんよ。

意外に知らない、転職経験者が持つ大事なスキル

ーー前編でも「まずは具体的に動いてみる」「漠然と考えているだけではモヤモヤはクリアにならない」という話がありましたね。

転職を当たり前の選択肢にできるかどうかには、過去の転職経験の有無が大きく影響します。転職して人間関係や基盤を一度リセットし、再構築した経験が一度でもあるのは大きい。

社内人脈の形成や社内コミュニケーションで発揮できる力は、いわゆる「ポータブルスキル」であり、転職によってそれを身に付けられるのは大きなメリットです。

最初の1回は心理的にもハードルが高いものですが、一度経験してその感覚を理解していれば、その後はもっと軽やかに動けるようになります。

 

ーー当たり前のようですが、たしかに「ゼロから人間関係をつくる」は転職で得られる大きなスキルですね。社内異動とは違うポイントかもしれません。

全てをゼロにして、謙虚に頑張っていかないといけない環境にあえて身を置くこと自体、社内で偉くなってきたミドル世代には非常にいい経験になるはず。

役職付きになると、部下に「あれ、やっておいて」と言うだけのコミュニケーションで業務を任せることができたり、これまでの社内の人脈で仕事をスムーズに進められたりする人も多いのではないでしょうか?

その楽な環境を捨て、転職先でまた一から積み上げる経験をしておくことは、今後の人生にも必ず役立つはず。人間、謙虚な姿勢を持っていなくては、仕事もプライベートもうまくいかなくなってしまいますから……。

ちなみに、シリコンバレーのトップ企業のリーダー層は、経歴だけでなく、その人柄も素晴らしい人ばかりで、初めての外資経験であったLinkedIn時代に驚きました。「転職が前提の社会では、そもそも人格者でないとリーダーになることができないんだな」と学びました。

ーーもはや「仕事=人生」の時代ではないからこそ、人として魅力的で、会社以外の自分の人生を謳歌している人が上司や同僚であってほしいですよね。

ワーク・ライフ・バランスという言葉がありますが、僕は「ワーク・ライフ・インテグレーション」という考え方をしています。子育てや介護をしている方なら特に共感いただけると思いますが、ワークとライフをきっちり分けるのは……無理ですよね?(笑)そして、それはそれでいいと思うんです。仕事と生活は、結局のところ切り離せない。

前編でもお伝えしましたが、人生の究極的な目的は、「幸せに生きて死ぬこと」。仕事、プライベートの垣根なく、これからどんなことをしていきたいのかを考え、そこから逆算して実現していけば、より楽しく幸せな時間を過ごせるのではないかと思います。

僕の場合、以前から茶道に興味があったんですが、お茶をある程度自由に楽しめるようになるためには少なくとも15年はかかると知って、43歳から習い始めました。「仕事が落ち着いてから」と60歳から習い始めたとして、いざ楽しめるようになった頃には死んでしまうじゃないか、それはもったいない! とある日気づいて(笑)。

何事も、楽しむためのランウェイ(助走期間)が必要。だからこそ、キャリアとライフのどちらにおいても、やりたいと思うことがあったら、早く始めるのが大事だと思いますね。

仕事は一生続けるもの 楽しくなくては長く持たない

――マイナビスカウティングのキャッチコピーは「今よりいい働き方を、今よりいい待遇で。」ですが、村上さんにとっての“いい働き方”ってなんですか?

やっぱり、楽しんで取り組めることですよね。楽しくなければ心も体も持たない。

社会保障制度が変化する中、僕ら以降の世代は、75歳や80歳まで働き続ける可能性も十分にあります。となると、仕事は「一生続けていくもの」だと思ったほうがいいわけで、しんどいこと、嫌なことを続けても多分幸せにはなれないですよね。

30〜40代になると、責任はどんどん増えますし、やりたくないことをやらなくてはならない局面も多いはず。自分自身もマネジメントはもういい、もっと直接プロダクトを作る楽しさを味わいたい! と思う夜も、正直あります(笑)。

仕事、苦しいな、と感じる時間が増えてきたら、自分にとって楽しいプロジェクトをゼロから作り出す意識をしています。「組織のためにやらなくてはいけないこと」と「ワクワクしながら楽しく挑戦できること」の割合をバランスしていくことではないでしょうか。

 

――「仕事」と一括りにせず、自分にとっての目的を分けて客観視するのは誰もが役に立つ考え方ですね。

働くって何? を突き詰めていくと、「世の中と主体的に接点を持ち、貢献していくこと」だと僕は考えています。

スキルや経験を通じてバリューを出せるものが仕事であり、それこそが社会に対する自分のスタンスにもなる。ただお金を稼ぐだけでなく、自分の喜びや楽しみも大切にしたい。そのためには、どういう形で働き、どのように社会と関わりを持っていくのか。それを考えていくことそのものが、人生をより充実させるためのプロセスなのだと思います。

(構成:上野真理子 編集:山崎春奈 写真:工藤朋子)


プロフィール

村上 臣(むらかみ しん)

青山学院大学理工学部物理学科卒業。大学在学中に仲間とともに有限会社「電脳隊」を設立。2000年8月、株式会社ピー・アイ・エムとヤフー株式会社の合併に伴いヤフー株式会社入社。2011年に一度退職した後、再び2012年4月からヤフーの執行役員兼CMOとして、モバイル事業の企画戦略を担当。2017年11月に約8億人が利用するビジネス特化型ネットワークのLinkedIn(リンクトイン)日本代表に就任。株式会社ポピンズ 社外取締役ほか複数のスタートアップの戦略・技術顧問も務める。著書に『転職2.0』など。