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物価は上がり続けているのに、年収は見合うほど増えていかない昨今。一度就職した会社で淡々と働き続けているだけでは、大幅な収入増は見込めない時代になっています。一方で、人材不足もあり転職市場は活性化。副業を許可する会社も増えています。
副業とは、自分の持つ可能性やスキルを収入に変えられる“市場価値”を見つけること。それってつまり……転職でもとても大事なことですよね?
これまでに転職8度、副業での起業2社を経験し、1億円以上の年収を稼ぐことに成功したmotoさんだからこそ知る、「副業と本業の相乗効果」を生み出す思考法を聞きました。
現在、人材系の広告代理店を経営するmotoさんは、30代ですでに起業が2社目。しかも、2021年に上場企業へ売却した1社目は、サラリーマンとして働きながら運営していたキャリア系のメディア企業でした。本業と副業、どちらも並行して着実に成功させてきた秘訣をこう話します。
「大事なのは、自分の“市場価値”を知ること。そして、求められる人になることです。僕は、本業でしっかりと成果を出しながら、バランスをとって副業に取り組むからこそ自分の成長速度が上がるし、相乗効果が生まれると考えています。たとえ、本業と副業がまったく違う業界だとしても、企業で働いた知見や経験、お金のフローなど、会社員だからこそ学べることが多くあります。本業に真剣に取り組むことで自分の市場価値が高まり、副業の仕事へとつながっていくのです」
moto(戸塚俊介)
1987年長野県生まれ。地元の短大を卒業後、ホームセンターに入社。大手人材会社やリクルート、楽天など8度の転職を経て、2019年独立。2016年から本業の傍ら副業を始め、副業で一時は年収1億円以上稼いだ。現在は人材系広告代理店のHIRED株式会社を経営。著書に『転職と副業のかけ算』(扶桑社)。
長野県の短大を卒業したmotoさんの社会人スタートは、年収240万円のホームセンター社員でした。その後、大手人材会社、リクルート、楽天、広告ベンチャーなどと転職するたびに年収がアップ。2019年には副業で起業した会社に一本化して独立し、経営者となりました。
「実はマイナビさんの、新卒事業に関する部署で働いていた時期もありました。当時は副業が禁止だったのですが、隠れてやっていて……。10年以上前の話ですが、この場を借りてお詫びします(笑)」
8度の転職で戦略的に年収アップし、最終的には独立して企業経営をするに至った背景には、常に自分の“市場価値”を考え続けたことがあると話します。
実は就職の際には、短大出身というハンデを乗り越えて、大手企業からも内定を獲得したそう。しかし、その大手企業の内定を断り、普段から通っていた地元のホームセンターへの就職を決めました。
会社名で守られた安定したレールに乗れる代わりに、部署や配属が不明な大手企業。一方で、普段から利用していたからこそ「価格設定や商品配列などを改善すれば、今よりいい店にできる」と自分のできることに気づいた地方のホームセンター。数年後の転職をすでに視野に入れていたmotoさんは、得られる経験を考えてホームセンターに決めたといいます。
「20代は、できるか、できないかはやらないとわからない。年収を追い求めるより今後につながる経験を積むことが何より大事だ、なんでもやってみようと思っていました。とにかく手を動かし、できる人の真似をして学んでみる。できる人のコツがわかるようになってきたら、自分でアレンジしてみる、を繰り返しトライしていました。それが自分のスキルアップの何より近道だと思ったからです。同じ仕事が自分よりずっとうまくできる人、特定の業界や分野に詳しい人、経営のトップ……そうした人たちに積極的に聞いて、貪欲に学んだからこそ、自分の強みとなる専門領域を持てるようになったと思います」
副業も同様に、まずは利益よりも「やってみる」ことを優先。「大手を蹴ってホームセンターに就職した話」を振り返るブログをスタートしたのが、本業と副業のパラレルキャリアの始まりでした。
「ブログ、すなわちメディアを自分で作ったことが、私の副業のスタートでした。当時は稼ぎたいというよりも、就職活動で得た知見を、まずは個人で書いてみようと思ったんですよね。副業は、自分の興味あること、好きなことを小さく始めることが大事。余暇の時間を使う副業だからこそ、楽しくないと続かないですから」
日々綴っていたブログが徐々に人気を集め、ランキング上位へ。地元の他企業からも「うちの会社を取材して記事にしてほしい」という依頼が来るなど成長していきました。自らの転職後も、そうしたWebメディアの運営を続け、副業の収入もどんどん増えていきました。
motoさんのように副業や転職の相乗効果で年収アップを目指したい人も多いはず。まずは何から始めたらいいのでしょうか?
「すでに自分が得意なこと、やってみたいことがある人は、無料でもいいので一度仕事を請け負ってみるのをおすすめします。仕事としてやってみると、本当にニーズがあるのか、お金を払っても依頼したいと思ってもらえるのか、などが肌でわかります。そして、これも同じく小さく始めることが大事。最初は『こんなことできますが、何か手伝えることはありますか?』と、周囲に聞くことから始めるのがいいでしょう」
日々何気なく仕事でやっている資料作り、マーケティング、営業、経理などの業務のスキルが、別の分野で役に立つ可能性もあります。自分が価値のあるものだと気づいていなくても、周囲にはニーズがあるかもしれない。だからこそ、まずは周囲に聞いてみる=営業をかけることがスタートになるというのです。
まずはお試し感覚でトライ。どれだけの価値を感じてもらえるか、相手にヒアリングをすることで、さらなるニーズを深掘っていくのがおすすめです。
「実際に私も新しい分野でビジネスをしたいと思ったら、まずはその分野にいる知人やクライアントなどに話を聞きにいっています。直接の知り合いがいなくても、周囲の人にお願いしてどんどん紹介してもらいましょう。その分野がどんなビジネスモデルなのか、現場ではどんな目標を立てて事業に取り組んでいるのか、どのような業界で何が課題なのか……とにかく現場を知る人に詳しく聞いていくのです。本業・副業を問わず、同じように一次情報を集めていました」
もう一つ、motoさんがおすすめしたい市場価値の見つけ方は転職エージェントに相談すること。
「今すぐ転職をすると決めていなくても、エージェントに会って話をすることはいつでもできます。キャリアカウンセリングは彼らにとっても大事な仕事なので遠慮せずOK。私も人材会社にいた経験があるからこそ、そうしたエージェントが幅広い業界を見て、市場のニーズを熟知していることはよく知っています。これまで取り組んできたことをフラットに話してみると、今の市場で求められるあなたのスキルや経験の価値を、客観的な視点で判断してくれるはずです」
両立で忙殺されるタイミングもありましたが、そんな時こそ、「副業だからこそ誠実に」を強く意識していたといいます。
「本業も副業も、自分に託された仕事は全力で成果を出すようにしてきました。誰に対しても成果で返すことで、信頼になっていくし、次の仕事につながります。『副業だからいいや』『副業があるから本業はいい加減でいいや』といういい加減な態度で仕事に臨むのは、絶対ダメですよね。なぜなら相手は、こちらが本業だろうと副業だろうとプロの“仕事”として期待しているからです。“指名される人”になるには、依頼された仕事に対して、毎回成果をちゃんと出すことが大前提だと思っています」
本業の場でも、上司や取引先に副業の話を正直にして信頼関係を築き、時には新天地への転職のオファーにもつながったと言います。
最後に、motoさんから副業や転職を考えている人への注意点を伺いました。
「一つはやはり、最初から大きな利益を求めずスモールステップで始めること。もう一つは、時給で働く労働集約的な方法に極力しないこと。本業がある以上は副業の時間は限られます。副業で時給換算の働き方をすると、心身の負担も重くなり、長く続けるのが難しくなっていきます」
と言いつつ、何よりもまず「試してみること」と鼓舞します。
「会社が副業NGだとしたら、お金をもらわなければいいのです。興味のあること、好きなことで、ボランティアで試してみたり、知識をつけたり、少しでも挑戦するのが第一歩。経験を積むのはいつでも、誰でも始められるはずです。経験を積めば『どうやらこのスキルはお金になるらしい』という勘もついてくるでしょう。
副業や転職活動を通して自分の市場価値を考えることで、視野が広がりますし、それがまた本業に生きることも多い。週末、休み時間、通勤電車……そうしたスキマ時間から始めてみてもいいですね」
すでにビジネスのM&Aも経験し、副業どころか本業も今はいらないのでは? そう聞くと、motoさんは笑顔でこう答えました。
「仕事で得られるのはお金だけではないですから、今後もずっと続けていきたいです。特に副業は、もともと好きなことや得意なことからスタートしたので、働いている感覚がなく、楽しいんですよね。本業が別にあった時代も、常に得たい学びや目標があったので、苦ではありませんでした。たとえお金や時間にゆとりができても、自分の人生は働いた方が楽しいと思っています」
働き続けたいと思えるほどの仕事を見つける、やりがいを見つける。それはきっと、自分の市場価値を知り、得意なこと、興味のあることを突き詰めた延長にあるのでしょう。
(構成:岩辺みどり、編集:山崎春奈、撮影:稲垣純也)