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管理職の転職はなぜ難しい?専門家が教える転職成功ポイント

管理職の転職はなぜ難しい?専門家が教える転職成功ポイント

管理職の転職はなぜ難しい?専門家が教える転職成功ポイント

管理職は、企業にとって重要な役割と責任を担うポジションですが、さまざまな理由から転職を考える方も少なくありません。ただ、管理職の転職は、非管理職と比べて難しそうと感じている方も多いのではないでしょうか。

本記事では、転職のプロによる知見をもとに、管理職における転職の現状や、難しいといわれる理由、転職に成功するためのポイントまで、実践的なノウハウを分かりやすく解説します。現在管理職の方、またはこれから管理職を目指す方にも役立つ内容です。

  【関連記事】「管理職とは何か? 一般社員や役職者との違い、役割と仕事内容」

【監修者】山田 実希憲

転職エージェント/株式会社ミギウデ CEO
株式会社矢動丸プロジェクト COO
社会福祉法人ゆうゆう 理事 CHRO

Contents

1.管理職の転職市場の実態

現在の管理職層における転職市場は活況です。その理由は一つではなく、いくつもの要因が重なっています。ここでは、企業側・求職者側、双方の視点で解説します。

1-1.【企業側】採用ニーズは高いが、採用できていない

現在、多くの会社で管理職層の不足が問題視されています。背景には人口構造の変化があり、特に40〜50代の就職氷河期世代が社内に少ないなど、管理職候補層が薄い状況があります。

一方で、企業の管理職に対する期待値が高い場合が多く、採用難易度の高さからなかなかポジションが埋まらないといった、「企業側の採用ニーズは高いものの、採用できていない」といった状況があります。

1-2.【求職者側】転職に対する価値観の変化

求職者側については、「転職に対する価値観が変化している」という点が、転職市場の活性化の要因となっています。

近年は、転職の方法が多様化してきています。特に、30代、40代のミドル~ハイクラスの求職者は、ダイレクトリクルーティングなど、企業から直接スカウトをもらって転職する、といった事例も増えてきました。

また、以前は「転職=後ろめたいこと」というネガティブな見方がありましたが、現在では転職が一般的になり、そうしたイメージは薄れています。

このような流れの中で、管理職として働いていて、転職を考えるようになる方も少なくありません。実際、『マイナビ転職』キャリアトレンド研究所のアンケートによると、「管理職になって転職を考えるようになった」と回答した人は43.5%に上ります。

「管理職になって良かった」と感じている人は約6割。一方で、管理職になって心身の健康が損なわれた人は約7割。|『マイナビ転職』キャリアトレンド研究所

  【出典】「管理職になって良かった」と感じている人は約6割。一方で、管理職になって心身の健康が損なわれた人は約7割。|マイナビ転職 キャリアトレンド研究所

2.管理職の転職が「難しい」といわれる理由

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管理職の転職市場は活況といわれる中で、管理職の転職が「難しい」といわれる理由は、どこにあるのでしょうか。ここでは、企業側・求職者側、双方の視点で解説します。

2-1.【企業側】管理職の採用要件を定義し切れていない

管理職の転職が難しい背景には、企業側が「どんな管理職を採用したいのか」を明確に定義し切れていないという点があります。

管理職層の採用ニーズは高まっていますが、実際には「事業立ち上げのコミット力」や「プロジェクトマネジメント力」など、企業ごとに求める役割や責任範囲が大きく異なるため、定義が難しいのが現状です。

一方で、採用要件を細かく設定しようとすると、理想が高くなりすぎてしまい、現実的な採用が難しくなるというジレンマもあります。こうした点が、企業側にとっても管理職採用の難易度を高めている要因です。

2-2.【求職者側】管理職の強みやスキルを言語化しづらい

管理職の転職が難しいといわれる理由は、求職者側にもあります。それは、管理職としての強みやスキルを言語化しづらいことです。

管理職に求められるスキルや経験は、事業推進力や部下育成、組織の課題発見力など多岐にわたり、企業によって重視するポイントもさまざまです。そのため、経験やスキルを具体的に言語化できないと、正当に評価されず、採用側とのミスマッチが発生してしまいます。

このように、企業側・求職者側、双方の課題が、管理職における転職の難易度を高めている要因と言えます。

【専門家からひとこと】

山田さん:例えば、面接などで強みを聞かれたとき、「○○社の部長」といった肩書で表現してしまう方も少なくありません。しかし、肩書だけでは、どのような課題に取り組み、どんな成果を上げてきたのか、具体的なイメージが伝わりにくいのが現実です。「どのような場面で、どんな課題に向き合い、どのように成果を出してきたのか」といったエピソードを、自分の言葉で伝えることが大切です。

 

3.管理職の転職で求められるスキル

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3-1.管理職として評価されるスキル

管理職として評価されるスキルは企業によっても異なりますが、「積極性」「課題発見力」といった一般的なスキルのほかに、事業の立ち上げなどで得られる「コミットメント力」「やり切る力」は、自社で育成することが難しいスキルということもあり、転職市場で高く評価される傾向があります。

また、「自分の役割を明確に定義し、それにもとづいて自律的に行動を組み立てられる力」や、「期待される成果に向けて仮説を立て、どのように人を動かして実現していくかを考え抜く組織運営能力」なども、管理職に強く求められるスキルだと言えます。

3-2.管理職の転職成功のカギとなる「言語化力」

管理職の転職では、これまで培ってきた経験やスキルを「どのように伝えるか」が非常に重要です。特に、抽象的な能力や成果を、具体的なエピソードや数字を交えて分かりやすく言語化できるということが、管理職に欠かせないスキルとなります。

例えば、「リーダーシップがあります」と伝えるだけでは、採用担当者にあなたの強みは十分に伝わりません。「どのような状況で、どんな課題に直面し、どのようなアプローチでチームをまとめ、どんな成果を出したのか」といったストーリーを、自分の言葉で語ることが大切です。

【専門家からひとこと】

山田さん:自分の経験や強みを言語化するのは、意外と難しいものです。もし一人で整理するのが難しいと感じた場合は、転職エージェントなどの専門家に相談するのも有効な方法です。第三者の視点から客観的にアドバイスをもらうことで、自分では気づかなかった強みやアピールポイントが見つかるかもしれません。

 

4.管理職が転職を考える理由

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管理職が転職を考える背景には、さまざまな理由があります。ここでは、よく見られる主な転職理由について解説します。

4-1.キャリアアップが望めない

大手企業やいわゆる優良法人では、良好な労働環境や企業の安定性から社員の定着率が高く、それ故に上位ポストが埋まったままになりがちです。その結果、管理職や準管理職層が「このままここにいても将来の展望が見えてしまう」と感じるようになり、更なる成長や挑戦を求め、「環境を変えるしかない」という判断に至るケースが少なくありません。

4-2.給与・年収に対する不満

管理職であっても、給与や賞与、評価制度に対する不満が転職理由となることは少なくありません。特に、成果や貢献度が十分に評価されていないと感じる場合、「もっと自分を評価してくれる環境で働きたい」と考えるきっかけになります。

4-3.職場環境・人間関係の悩み

職場の雰囲気や人間関係、特に上司との関係性が転職を後押しすることもあります。信頼できる上司がいない、組織の方針に共感できないなど、日々のストレスが積み重なり、「環境を変えたい」と思うようになることも多いです。

4-4.将来への不安

企業の業績や事業方針の変化、将来のキャリアパスが見えないことへの不安も、転職を考える大きな要因です。特に、変化の激しい時代においては、「今のままで良いのか」と将来を見据えて転職を検討する管理職も増えています。

【専門家からひとこと】

山田さん:大手企業であればあるほど、縦割りの組織体制が強くなりがちです。そのため、自分が望むポジションに就くことが難しい場合、環境を変えるという選択肢しか残されていないこともあり、転職を考える方もいらっしゃいます。

 

5.管理職が転職に成功するためのポイントと注意点

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5-1.自己分析のポイント

管理職として転職活動を成功させるためには、事前の準備が非常に重要です。特に意識したいのが「自己分析」と「転職理由の明確化」です。

転職理由を掘り下げていくと、「キャリアアップ」や「新たなチャレンジ」といった前向きな理由の裏に、「賞与が低い」「評価されていない」「上司との不和」といった、本質的な不満が隠れていることが多くあります。

こうした本音を自分自身でしっかり見つめ直しましょう。十分な自己分析ができていないまま転職活動を始めてしまうと、環境を変えても根本的な課題が解決されず、同じ悩みを繰り返してしまう可能性があります。

そのため、転職を考え始めたらまず、「自分が本当に求める環境は何か」「なぜ転職したいのか」を自問し、表面的な理由ではなく“転職の本質”を明確にすることが重要です。

自己分析を通じて、自分の強みや価値観、今後のキャリアビジョンを言語化しておくことで、転職活動をより納得感のあるものにできるでしょう。

5-2.自己PRのポイント

管理職の転職においては、「自分の価値を具体的に語れるかどうか」が成否を分けます。

「マネジメント経験あり」といった抽象的な表現ではなく、どのような組織で、どのような課題に向き合い、どのような成果を上げたのか――そこまで掘り下げて言語化し、明確に伝えることが不可欠です。

一つ注意が必要なのは、「管理職になること」自体が目的になってしまっている場合です。

企業が本当に求めているのは、“かたちだけ”の管理職ではなく、その先のビジョンを描き、自らの役割を主体的に設計できる人材です。単に与えられた業務を遂行するのではなく、「この人となら未来を築けそうだ」と感じさせられるかどうかが、評価を大きく左右します。

また、企業側の採用判断も、必ずしも論理的・明確とは限りません。例えば「前職で部長だったなら問題ないだろう」といった肩書ベースの表面的な基準で、選考が進んでしまうケースも少なくありません。
だからこそ、候補者自身が自らの強みや実績を高い解像度で、具体的かつ説得力をもって語ることが重要であり、それがほかの候補者との差を生むことにつながります。

  【関連記事】「管理職経験をアピールしたい場合の自己PR例文・書き方」

5-3.職務経歴書作成のポイント

「自分のキャリアをいったん、棚卸ししてみる」ということも、転職に臨むうえでは大切です。

例えば職務経歴書を書くとき、多くの方は形式ばかりを気にしてしまい、本来アピールすべき経験や成果を一行であっさり片付けてしまいがちです。たとえどれだけ努力して、価値あるスキルにつながった経験だったとしても、それでは相手に伝わりません。

やるべきなのは、これまでの仕事を時系列で整理するだけでなく、「そのとき自分がどう感じていたか」という“感情”も一緒に書き出してみることです。

そうすることで、自分が何を大事にしてきたのか、どんな働き方が自分に合っているのかが見えてきます。更に、「それをもっと増やせる働き方にシフトしよう」といった戦略も立てられるようになります。こうした“感情との接続”が、自分の価値観やモチベーションを仕事と結び付ける大きなヒントとなります。

キャリアの棚卸しの際は、下記のようなシートを活用するのもおすすめです。

ライフ&ワーク振り返りシート

「ライフ&ワーク 振り返りシート」エクセル版(記入例付き)
「ライフ&ワーク 振り返りシート」PDF版

【専門家からひとこと】

山田さん:多くの方にとって、管理職になることはキャリアの「ゴール」ではないはずです。管理職になった先にどのようなことを実現したいのか、その先の世界観を持っていることが大切です。ぜひ上記のようなツールも活用し、キャリアの解像度を上げてください。

  【関連記事】「職務経歴書(職歴書)の書き方マニュアル完全版・例文集」

 

6.管理職が転職後に活躍するために

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6-1.まずは「信頼」を積み上げる

これから転職を考えている管理職の方に、あえて転職することのネガティブ面をお伝えすると、「転職=信用残高ゼロ」からのスタートになる、ということです。

どれだけ前職で信頼されていたとしても、新しい組織ではその実績は通用しない場合が多く、信頼を一から築いていかなければなりません。
その点を意識したうえで、転職後早期の段階から信頼を積み上げていく努力をすることが、新しい環境で活躍するための大切なポイントになります。

6-2.計画性をもって成果を出す

新しい環境で信頼を得るためには、早期に成果を出すことも有用です。採用時には、「半年くらいかけて慣れていけばいい」などといった話があるかもしれませんが、それをうのみにするのではなく、「3カ月以内に成果を出す」など、主体的に計画を立てて、行動することが大切です

6-3.自分の役割を上司と擦り合わせる

人事担当者や直属の上司など、評価者との継続的なコミュニケーションも欠かせません。入社前から「どのような成果を期待されているのか」「そのために何をすべきか」を具体的に擦り合わせておくことが大切です。そして、入社後も継続してその期待値と自分の行動がズレていないかを確認し続けることが、安定した信頼と評価につながります。

7.専門家に聞く! 管理職の転職に関するQ&A

Q:管理職を目指していますが、管理職になる前に転職するのと、管理職になってから転職するのでは、どちらのタイミングが良いでしょうか?

山田さん:理想としては、「管理職になってから転職」です。実績を積んでから転職するほうが選べる求人数が多く、年収も高くなりやすいためです。ただ、転職したほうが早く管理職になれる場合もありますので、現職の状況次第とも言えます。

Q:管理職は転職活動の際、どのようなサービスを利用するのが良いでしょうか。

山田さん:自分の強みや方向性が明確なら、大手の転職サイトを用いて広く求人を探すのが有効です。一方で、特定業界に強みを持つエージェントや、経営者とつながりのある人脈型のエージェントであれば、より詳細な企業情報の提供や、直接的な紹介が期待できるので、自分の転職戦略に合わせて両者を使い分けるのがいいでしょう。

Q:管理職が転職活動で特に注意すべきポイントは何ですか?

山田さん:自分の軸を決める前に、多くの転職サービスに登録することはおすすめできません。多くのスカウトや求人情報が来ると、市場価値が高いように錯覚しやすく、冷静に自分に合った求人を見分けるのが難しくなってしまうためです。「取りあえず登録すれば何とかなる」という受け身の姿勢でなく、主体的に選択することが、転職活動の成功につながります。

8.まとめ

管理職の転職市場は活況ですが、企業側・求職者側それぞれの理由から、管理職の転職は比較的難易度が高いとも言えます。しかし、その理由を理解し、主体的に転職活動を行うことで、転職に成功できる可能性は十分にあります。

まずは自分のキャリアを棚卸し、軸を見つけ、伝わるように言語化する。時には転職サービスやツールなどを使いながら、戦略的に転職活動を行うことで、理想のキャリアに近づいていくでしょう。

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山田 実希憲さんのプロフィール画像

山田 実希憲

転職エージェント/株式会社ミギウデ CEO、株式会社矢動丸プロジェクト COO、社会福祉法人ゆうゆう 理事 CHRO

大学卒業後にリフォーム会社に就職。30代で経験した転職活動が人材紹介業に関わるきっかけとなり、JACリクルートメントに転職。その後、ベンチャー不動産会社での紹介事業立ち上げ、Gemini Careerでは代表取締役CEOとして経営人材紹介、女性経営人材育成プログラム開発に携わる。現在はミギウデで事業承継を支える経営チーム紹介など、企業に対する課題解決型の人材紹介、組織コンサルティングとともに人材のキャリア構築を支援。著書「いずれ転職したいので、今のうちに自分の強みの見つけ方を教えてください!」(ぱる出版)「年収が上がる転職 下がる転職」(すばる舎)など。