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「管理職=残業代なし」と思われがちですが、実はすべての管理職が残業代の対象外になるわけではありません。労働基準法で定められている「管理監督者」に該当しない場合、役職にかかわらず残業代が支給されます。
残業代が出ない管理監督者の条件や、残業代が支払われるケース、更に自分の働き方がどちらに該当するか確認できるチェックリストも紹介します。
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「管理職になると残業代は出ない」と思われがちですが、実際は管理職にも残業代が支給されることがあります。ここでは、管理職の扱いと残業代の関係について、制度の仕組みや注意点を分かりやすく解説します。
社内で「管理職」と呼ばれる立場であっても、法律上の「管理監督者」に該当しなければ、残業代は支払われます。
まず、「管理職」と呼ばれる立場に法律上の明確な定義はなく、どの役職を「管理職」とするかは会社によって異なります。
一方、労働基準法で定められた「管理監督者」とは、経営者と一体的な立場にある従業員を指し、労働時間や休日などの制限を受けません。そのため、残業代支給の対象外となります。「管理監督者」と見なされるには、職務内容の責任の重さや権限など実態に即して判断されるため、社内における「管理職」とは必ずしも一致しません。
つまり、「管理職」の中には「管理監督者」ではない人もいるため、「管理職=残業代なし」とは限らないのです。
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上述したように、「管理監督者」に当たる「管理職」は残業代の支給対象外です。
なぜなら、会社の経営に関わる「管理監督者」は自分の裁量で働くのが基本であり、「会社が労働時間を管理して残業代を支払う」という規定の対象外となるため、残業代や休日労働に対する割増賃金は支払われません。ただし、22時から翌日5時までの深夜割増賃金支給されます。
一般的に、「管理監督者」は、役職名だけで決まるわけではありません。具体的に、どのような働き方が管理監督者に該当するのかは次の項目で詳しく解説します。
【出典】厚生労働省「労働基準法における管理監督者の範囲の適正化のために」
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管理監督者は36協定の適用対象外であるため、労働時間や休憩、時間外労働などの規制を受けず、勤務形態も一般社員とは異なります。
ここでは、残業代の対象外となる管理職(管理監督者)の判断基準や該当する条件を紹介します。
管理監督者と認められるには、経営者と一体的な立場で、会社の経営に関わる重要な判断や方針決定に関与している必要があります。
労働時間の制約にとらわれず、自らの裁量で経営上の判断や決定を行うような「重要な職務」を担っていない限り、管理監督者とは見なされません。
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管理監督者には、経営者から組織運営に関わる「重要な責任と権限」を委ねられている必要があります。
役職があっても、単に上司の指示を伝えるだけだったり、上司に判断を仰ぐだけなど、業務における裁量権がない場合は管理監督者とは認められません。
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管理監督者には、自分の労働時間を自らの裁量で調整できる立場であることが求められます。例えば、早出や残業、休日出勤などを自分の判断で行える状況でなければなりません。
「過重労働防止の観点以外で、労働時間が厳密に管理されている」「遅刻や早退で給与が控除される」「営業中は職場に常駐しなければならない」などの場合は、管理監督者に該当しません。
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管理監督者と認められるには、その職務の重さに見合った賃金などの待遇が用意されていることが条件です。
「いくら以上」という明確な基準はありませんが、役職だけ与えられ、給与や賞与が一般社員とほとんど変わらないような場合、管理監督者には該当しません。
【出典】厚生労働省「労働基準法における管理監督者の範囲の適正化のために」
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残業代が出る管理職の条件は、上述した4つの条件を総合的に満たしていないことです。もし1つでも当てはまらないものがあれば、実態的に管理監督者とは見なされず、残業代の支給対象となります。
例えば、会社に昇給や昇格を決める評価制度があるのに、部下の人事考課を担当せず、実質的な評価や決定に関わっていない時は、重要な責任と権限を与えられてない立場と判断される可能性があります。
また、長時間労働を余儀なくされた結果、時間単価が同じ職場のパート従業員より低くなる場合などは、管理監督者の待遇として不適切と判断されるため、残業代の支給対象となる可能性が高いでしょう。
【出典】厚生労働省「労働基準法における管理監督者の範囲の適正化のために」
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次のチェックリストは、「管理監督者」には該当しない勤務実態の例です。
もし、1つでも当てはまる項目がある場合は、「管理職」と呼ばれていても残業代が支給される可能性があります。
| ● 部下の昇進・昇給・異動などを決定する実務評価に関与していない
● 会社の方針に意見できず、指示を受けて現場に伝達する役割にとどまっている ● 労働時間や業務の優先順位を決める自由がなく、常に上司の指示を待っている ● 採用面接には立ち会うが、最終的な決定権は与えられていない ● 会社から労働時間を指定され、毎日決まった時間に出社・退社しなければならない ● 遅刻や早退をした場合、その分が賃金から控除される ● 役職手当が少額で、責任や業務量に見合っていない ● 月給が残業代をもらっている部下のほうが高い ● タイムカードによる厳格な勤怠管理をされている ● 経営に関わる重要な会議に出席しない |
上記のような勤務実態に該当するにもかかわらず残業代が支払われていない場合、会社が「管理監督者」の定義を十分理解していない、もしくは法的義務を回避しようとしている可能性があります。
実態として「管理監督者」に該当しなければ、残業代の支給対象となるため、適切な賃金の支払いを求めることが大切です。残業代に関しておかしいと感じたら、まずは会社に状況の説明と是正を求め、解決が見込めない場合は労働基準監督署などの専門機関へ相談することも検討しましょう。
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残業代と同様に、管理職の休日出勤手当や深夜割増手当も疑問を感じやすい部分です。ここでは、それぞれの手当について、基本的な考え方と注意点を整理して解説します。
管理監督者に該当する管理職には、休日労働に関する規定が適用されず、休日出勤をしても35%以上の法定の割増賃金(休日出勤手当)は原則支払われません。
なぜなら、経営者と一体的な立場にある管理監督者は、自らの判断で労働時間を管理できるため、休日出勤に対しての特別な手当は不要とされているからです。
ただし、勤務の実態が管理監督者に該当しない場合は、休日出勤手当も支給対象となります。また、就業規則や労働契約書に「すべての従業員へ休日出勤手当を支給する」などと明記されていれば、管理監督者であっても支給される可能性があります。
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管理監督者に該当する管理職にも、深夜労働(22時〜翌日5時)に対しては25%以上の割増賃金が支払われます。
深夜時間帯の労働は心身に大きな負担をかける可能性があるため、労働者の健康と生活を守る観点から、管理監督者であっても例外なく割増賃金が支給されます。
なお、有給休暇も一般社員と同様、付与されます。
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役職があるにもかかわらず、経営に関わる責任ある職務に従事していない・労働時間の裁量がない・待遇が見合わないなどの場合は残業代の支払い対象になることがあります。チェックリストを活用し、自身の働き方と待遇のバランスを確認してみましょう。
もしも、管理職になったことで残業代がなくなり、かえって年収が下がってしまったという方は、今後のキャリア設計を見直す良いタイミングです。管理職経験は転職市場でも高く評価される要素のため、実績とマネジメント経験を生かして、より納得のいく条件で働ける職場を探すことも選択肢の一つです。
まずは自分の働き方と待遇を客観的に整理することから始めてみましょう。
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監修:谷所 健一郎
キャリア・デベロップメント・アドバイザー(CDA)/有限会社キャリアドメイン 代表取締役
1万人以上の面接と人事に携わった経験から、執筆、講演活動にて就職・転職支援を行う。ヤドケン転職塾 、キャリアドメインマリッジを経営。主な著書「はじめての転職ガイド 必ず成功する転職」、「転職者のための職務経歴書・履歴書・添え状の書き方」、「転職者のための面接回答例」、「転職者のための自己分析」(いずれもマイナビ出版)ほか多数。