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リーダーシップとは「状況に応じて役割を変えること」。グロービス若杉教授が説く、人が自然とついてくるセルフ・コンパッションの技術

リーダーシップとは「状況に応じて役割を変えること」。グロービス若杉教授が説く、人が自然とついてくるセルフ・コンパッションの技術

「管理職は罰ゲームだ」という言葉が広がるほど、リーダーの重圧は増しています。AIの台頭、リモートワークの普及、多様な雇用形態の混在――変化が絶えない現代において、管理職に求められる役割は複雑になりました。「どう振る舞えば正解なのか」と迷い続け、疲弊してしまうリーダーも少なくありません。

そんな時代に、グロービス経営大学院でリーダーシップ・組織行動を教える若杉 忠弘教授は、「心身の状態を整えることが、自然と周囲がついてくるリーダーシップにつながる」と語ります。その核心にあるのが、ビジネスの分野で注目される「セルフ・コンパッション(自分にやさしくすること)」の概念です。自身もリーダーとして深刻な疲弊を経験し、このアプローチによって立ち直ったという若杉氏に、リーダーに本当に必要な「心の技術」とは何かを伺いました。

【プロフィール】若杉 忠弘
グロービス経営大学院教授
専門はリーダーシップ開発、コンパッション、ウェルビーイング。組織におけるセルフ・コンパッションの研究と普及に取り組む。

 

Contents

リーダーシップとは何か?

リーダーシップとは 1

――多くの30〜40代のビジネスパーソンが、昇進と共に「リーダーシップ」の壁に直面します。若杉さんはリーダーシップをどのように定義されていますか?

シンプルに言うと、「目標達成に向けて、状況に応じて役割を変えること」です。

私は、リーダーシップを構成する要素として、大きく4つの観点があると考えています。

1.どのような方向性を示すか
2.個々のメンバーにどう対応するか
3.メンバーへのチャレンジをどう促すか
4.自らがどのようなロールモデルになるか

これらはすべて、状況によって最適解が変わります。

よく「リーダーはこうあるべき」「こう振る舞うべき」といった定型的なイメージがありますが、実際には定型的なフォーマットは存在しません。データで見ても、リーダーシップのあり方は状況によって変わります。

例えばAIが急速に進化し、変化が大きい環境と、変化が少なく安定した環境では、リーダーシップのあり方はまったく異なります。

状況を読み取り、求められる役割を見極め、そして実践する。この「分析」と「実行」の二段階が常に求められるからこそ、リーダーシップは難しいのです。

そして実は、この「状況に応じて役割を変える」という営みを支えている土台があります。

――「土台」とは、具体的にどのようなものなのでしょうか?

一言で言えば、「Being(心身の状態)」です。スキルや行動ももちろん重要です。しかし、それらはあくまで「表に現れるもの」にすぎません。その土台にある心身の状態が整っていなければ、本来の力は発揮されないのです。

例えば、高熱が出ている時にどれほど優れたスキルを持っていても、パフォーマンスは発揮できませんよね。同じように、心身が疲弊していれば、能力を十分に生かすことはできないのです。

ここ10年ほどの学術研究でも、「心身の状態が整っているからこそ、スキルを獲得でき、適切な行動がとれ、それが成果につながる」という因果関係がかなり明確になってきました。

ところが従来のリーダーシップ論では、「どんなスキルを身につけるか」「どんな行動をとるか」といった議論が中心で、「心身の状態を整える」視点はほとんど扱われてきませんでした。しかし、この「盲点」こそが、実は最も大きな原動力になる部分なのです。

多くの管理職が誤解している?リーダーシップとマネジメントの違い

リーダーシップとは 3

――現場では「管理」と「先導」が混在し、苦しむ管理職も少なくありません。リーダーシップとマネジメントの違いはどこにあるのでしょうか?

一般的には、リーダーシップは「変化を生み出すこと」マネジメントは「安定的に運営し、効率を高めること」と説明されることが多いですね。

ただし、この2つは、本質的には相反する概念です。変化は安定ではなく、安定は変化ではない。ところが、チームを率いる立場になると、この相反する役割を同時に担うことが求められます。そこに大きなプレッシャーが生まれるのです。

――その相反を抱えながら、リーダーはどう意思決定すべきなのでしょうか?

まず前提として、この2つを完全に両立させることは不可能です。だからこそ、ある程度の割り切りが必要になります。「今は変化の創出を優先するのか(リーダーシップ)」それとも「安定的な運営を優先するのか(マネジメント)」──その都度、優先順位を明確にし、多少の犠牲を伴いながらも実践していくしかありません。

私自身、リーダーとして最も疲弊した時期がありました。精巧なガラス細工のように丁寧にチームを築きながら、それを毎日、高速で作り直さなければならない状況だったのです。完璧な両立を目指し続けたことこそが、疲弊の根本的な原因でした。そこで初めて、「何をどう両立するか」以前に、自分自身の状態を整える必要があるのではないかと考えるようになりました。

自然と周囲がついてくる「リーダーシップがある人」の共通点は「自分へのやさしさ」

リーダーシップとは 5

――若杉さんから見て、周囲が自然とついてくる「リーダーシップがある人」に共通する特徴は何でしょうか?

「メンバーの心身の状態を整えられるリーダー」です。

成果を出すリーダーはたくさんいます。しかし、メンバーをボロボロにしながら出した成果では、長期的な信頼は得られません。一方で、「このリーダーのもとで働くと自分の状態が良くなる」と感じられれば、メンバーは自然とついてきます。

メンバーの状態を良くする大きな要因は、「自分が大切に扱われている」と感じられることです。そのための行動は、実はとてもシンプルです。それは「話を聞くこと」です。

メンバーに「リーダーに何を期待するか」と尋ねると、ほぼ必ず「悩みを聞いてほしい」「一緒に考えてほしい」という答えが返ってきます。ところが、いざ自分がリーダーになると、「方向性を示さなければ」「答えを出さなければ」と力み、話を聞けなくなってしまう。これは、多くのリーダーが陥りがちな落とし穴です。

そして、本当に話を聞くためには、リーダー自身が疲弊していてはいけません。上司がピリピリしていれば、メンバーは本音を話せないですよね。感情は伝播するものであり、リーダーの状態がチームの状態をつくるのです。だからこそ、まず整えるべきは自分自身のBeing(心身の状態)なのです。

では、自分の状態はどう整えればいいのか。私がその土台として大切にしているのが「セルフ・コンパッション」の概念です。セルフ・コンパッションとは、自分がうまくいかないときや傷ついたときに、批判するのではなく、思いやりをもって向き合う姿勢のこと。近年、ビジネスの分野でも注目されている考え方です。

——「セルフ・コンパッション」は一見すると「甘え」のようにも思えますが、なぜそれがリーダーの強さにつながるのでしょうか?

自分に向き合うとき、私たちは無意識にいくつかの反応パターンを選んでいます。大きく分けると3つの道があります。「自己批判する道」「自分を甘やかす道」「自分にやさしくする道」です。

多くのリーダーは、うまくいかないと自分を責めます。しかし、すでに傷ついているのに更に攻撃するのは、傷口に塩を塗るようなもの。何も解決しません。

かといって、自分を甘やかすことも違います。ストレスをお酒や衝動的な消費で発散したり、仕事から逃げたりすることは、一時的な緩和にすぎません。

第三の道——自分にやさしくするとは何か。けがをしたら、まず傷を手当てしますよね。血が流れているのに走り続けたり、傷口をえぐったりはしません。セルフ・コンパッションとは、メンタルの傷に同じようにケアを施すこと。それだけです。

リーダーは、毎日のようにメンタルに小さな擦り傷を負っています。その都度きちんとケアすれば、回復は早く、再びパフォーマンスを発揮できます。これは極めて合理的なアプローチです。

それにもかかわらず、「自分にやさしくする=甘え」という思い込みが邪魔をする。「自分に厳しく、他人にやさしく」といった価値観が、無意識の呪縛になっているのです。その呪いを解くことこそが、これからの時代を生きるリーダーに必要なのだと思います。

——セルフ・コンパッションを取り入れた「自分を傷つけない内省」のやり方を教えてください。

大切なポイントは3つあります。

まずは「マインドフルネス」。自分が今何を感じているのかに、そのまま気づくことです。「失敗して悲しい」「つらい」「悔しい」——それを素直に認めるだけでいいのです。ところが実際には、つらい出来事について尋ねると、感情ではなく状況の説明を始めてしまう人がほとんどです。しかし、「自分は今、悲しいんだ」と受け止めた瞬間、不思議と心が少しほっとして、ぎゅっと握りしめていた拳が、ふっと緩むような感覚が生まれます。

次に大切なのが、「共通の人間性」という視点です。つらい体験をしたことのないリーダーはいないはずです。みんな表に出していないだけで、それぞれに葛藤や失敗を抱えています。「自分だけじゃない」と気づけたとき、孤独感はやわらぎます。追い詰められたときに友人に相談し、「私も同じだよ」と言われて救われた経験があるなら、それと同じ感覚です。

そして最後が、「自分へのやさしさ」。「なぜ自分はできないんだ」と責めるのではなく、「ここまで本当によく頑張ってきたね」「十分大変だったね」と声をかけてあげることです。自分を甘やかすのではなく、傷ついた心をきちんと手当てするということです。

この3つを意識するだけで、心身の状態は少しずつ整っていきます。そして状態が整うと、ようやく冷静に「本当の原因は何だったのか」と前向きに分析できるようになる。セルフ・コンパッションとは、自分へのやさしさを通じて冷静さを取り戻すための技術なのです。

今の職場でリーダーシップを発揮しきれないあなたへ

リーダーシップとは 2

——内省やセルフ・コンパッションを実践してもなお、「管理職という役割そのものがつらい」と感じてしまう人もいます。そうしたとき、どのように状況を捉え直せばいいのでしょうか?

本質的には、「自分と環境とのフィット」の問題だと思います。追い詰められているとき、人は「この状況を何とかしなければならない」という一択しか見えなくなります。しかし実際には、選択肢は一つではありません。

配置転換を願い出る。上司に相談し、少し長めの休みを取る。あるいは転職して、新しい挑戦をする。

これらは決して「逃げ」ではありません。自分の状態と環境との適合性を見極め、主体的に選択するということです。

私がよく使うのは、「ヘリコプターで山を俯瞰する」イメージです。山を登っている最中は、前後5メートルほどしか見えない。しかし、一度上空から全体を見渡せば、それがエベレスト級の難易度だと分かるかもしれない。そう気づいたとき初めて、「これは一人では難しい」「リソースが必要だ」と健全に助けを求める判断ができるのです。

視野を広げることで、状況との距離が生まれます。その距離が心身に余白をつくり、より冷静な判断を可能にする。環境を変えるという選択も、その一つにすぎません。

——最後に、厳しい環境の中で奮闘しながら、次のステージを目指している管理職の読者へメッセージをお願いします。

私はよく「酸素マスク」の話をします。飛行機が緊急事態に陥ったとき、客室乗務員は「まず自分にマスクをつけてから、お子さまや周囲を助けてください」と案内しますよね。

今多くのリーダーが置かれているのは、まさに「緊急事態が続いている」ような状況です。だからこそ、まず自分のBeing(心身の状態)を整えることを優先していいのです。そこに罪悪感を抱く必要はありません。自分の酸素マスクをつけないまま周囲を助けようとしても、結果として誰も守れなくなってしまいます。

繰り返しになりますが、自分の状態が整ってはじめて、メンバーの心身を支えることができます。その結果、一人ひとりが自ら考え、自律的に動けるようになるのです。一見遠回りに見えるかもしれませんが、それこそが変化の激しい時代において、持続的な成果を生み続けるための基盤になるのです。

まずは自分に酸素マスクを。そして、周囲にも酸素マスクを。その積み重ねの先にこそ、持続的なパフォーマンスが生まれるのだと思います。

(取材・執筆:金子 茉由)

リーダーシップとは 書影

【書籍】「すぐれたリーダーほど自分にやさしい 疲れ切らずに活躍するセルフ・コンパッションの技術」

 

今、リーダーの置かれている状況は過酷です。
「売上アップ」「生産性向上」「部下指導」「パワハラ対策」「人員減少」「業務山積み」……。

 

さまざまな課題を抱え、経営陣とメンバーの間に挟まれて、苦労が絶えないリーダーたち。
突破口を見出そうと必死に頑張るものの、期待通りの成果を出せず、焦る毎日です。一時的に成果が出たとしても、容赦なく次の要求へのプレッシャーが降りかかってきます。
常に環境変化への対応を迫られる中で、今、心身ともに疲れ切ってしまうリーダーが増えています。

 

こうした状況を打開する新しいスキルが、セルフ・コンパッションです。
「仕事に疲れ切らずに、成果を上げたい」
こう望むすべてのリーダーに、セルフ・コンパッションの技術をお届けします。
(かんき出版書籍紹介より一部引用)

 

かんき出版刊
著者:若杉 忠弘
発行年月:2024年8月
定価:1,760円

 

コンパッション・センター(若杉 忠弘 個人ウェブサイト)>
若杉 忠弘 note>

 

若杉 忠弘さんのプロフィール画像

若杉 忠弘

グロービス経営大学院教授

専門はリーダーシップ開発、コンパッション、ウェルビーイング。組織におけるセルフ・コンパッションの研究と普及に取り組む。

東京大学 工学部・大学院修了後、戦略コンサルティングファームにて経営戦略策定や組織変革支援に従事。その後、ロンドン・ビジネス・スクール でMBAを取得し、英国で教育ベンチャーの立ち上げに参画。帰国後はグロービスで英語MBAプログラムのディレクターなどを務める。

一橋大学大学院 にて経営学博士号を取得。日本のビジネスパーソンを対象とした研究を通じ、「自分へのやさしさが強さを育む」リーダーシップのあり方を提唱している。著書に『すぐれたリーダーほど自分にやさしい 疲れ切らずに活躍するセルフ・コンパッションの技術』(かんき出版)。