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AIが急速に普及し、業務の在り方が根本から問い直されている現在。「AIをどう活用すべきか」「自分の役割はどう変わるのか」と悩んでいる管理職の方も少なくないでしょう。一方で、AIをマネジメントに取り入れ、チームの生産性を向上させることで、転職市場での価値を高めている人もいます。
本記事では、1,000社を超える企業・自治体のAI/DX人材育成や開発を支援し、現場の最前線でAI導入の成否を見続けてきた株式会社スキルアップNeXt代表取締役の田原氏にインタビュー。AI時代に「評価を上げる管理職」と「役割を失う管理職」の違い、そして明日から実践すべき具体的なアクションについて詳しくお話を伺いました。
【プロフィール】田原 眞一
株式会社スキルアップNeXt代表取締役 |
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田原:最も分かりやすい、評価を下げてしまう管理職の特徴は、AIを使いこなそうという意識のない人はもちろん、AIでの調べものや情報収集、議事録の要約で満足してしまっている人です。厳しい言い方かもしれませんが、自分の作業を10分短縮できたことで喜んでいるのは、もはや3年ほど前の古い感覚だと言わざるを得ません。
今はもう、ゲームのルールが完全に変わっています。評価を上げる管理職は、自分個人の効率化にとどまらず、チーム全体としていかに成果を上げるかという視点でAIを業務プロセスに組み込んでいます。
特に大きな差が出るのは、管理職自身がAI活用において背中を見せ、チームをリードできているかどうかです。部下は、上司がAIの本質を理解しているかどうかを実によく見ています。もし「この上司はAIの進化を何も分かっていない」と思われてしまえば、部下からの信頼だけでなく、経営層からの評価にも影響が出る可能性があります。これからの管理職は、自社の業務にAIがどう影響し、今後どのように役割がシフトしていくのかを、自身の言葉で明確に語れる必要があります。
田原:私自身も社内で実践していますが、毎週のように、誰のどのような課題を解決するためにAIエージェントを作ったのかをチームで共有し、ハンズオンでレビューし合う場を設けています。具体的には、非エンジニアのメンバーであっても自力でAIエージェントを作れるようになることを目標に掲げ、実際に作成したツールをデモ形式でプレゼンしてもらうのです。
単に「AIを使ってね」と号令を掛けるだけでは、現場は変わりません。管理職自ら実践し、プロトタイプを見せながら「もっとこうしたほうが使い勝手がいいのではないか」と実務の細部まで踏み込んでいく。こうした泥臭いまでのコミットメントができるかどうかが、次世代の管理職に求められる資質だと言えます。
逆に、「うちは生成AIは使わない」と断言してしまうような組織は、例えるなら20年前に「インターネットもメールも使わない。連絡はすべて手紙だ」と言っているのと同じ状況です。そのような環境に身を置き続けることは、管理職としての市場価値を下げてしまうリスクがあると考えています。

田原:2025年から2026年にかけて、「AIエージェント」という言葉が単なるバズワードではなく、実務レベルで当たり前になりつつあります。AIエージェントの特徴は、人間が指示を出すのを待つだけでなく、自律的に動くことです。
もともと進捗管理や情報伝達といった「管理のための管理」作業は、AIが非常に得意とする領域です。これまで管理職の仕事とされてきた定型的なタスクは、今後ますますAIやシステムへと置き換わっていくでしょう。これからの管理職に求められるのは、現場を統制することではなく、人間とAIエージェントをどう協働させるかという設計者(デザイナー)としての役割へのシフトです。
田原:AIに管理業務を任せることで生まれた時間を、徹底的に人と向き合うために使うべきです。特に日本人のコミュニケーションは、思っていることと言っていることが異なるケースも少なくありません。例えば、会社が楽しいかと問われて、表面上は楽しいと答えながらも、表情に疲れがにじんでいる部下のニュアンスを感じ取れるのは、まだ人間だけなのです。
こうした人間特有の機微に向き合い、適切な意思決定を下す。そして、AIに学習させるべき背景情報(コンテキスト)を人間が整理していく。このように、確率論で動くAIの良さと、確定的なシステムの正確さ、そして人間の感性をパズルのように組み合わせることこそが、これからの時代に求められるマネジメントの姿ではないでしょうか。
田原:大切なのは、あくまで考えを深める目的でAIを使うことです。内容を精査せず、まるごとAIに投げただけのアウトプットは、レビューをすればすぐに分かります。AIはツールにすぎず、出てくる文章がどれほど奇麗であっても、結局は適切な問いを立てられるかどうかですべてが決まってしまいます。
もし部下が何も考えずにAIの回答を持ってきたのであれば、そこに対して適切にフィードバックを行うことが管理職の役割です。管理職自身がAIを活用できていなければ、当然クオリティを評価することもできません。そのため、アウトプットの良しあしを判断し、クオリティコントロールができるレベルまで自分自身がAIを活用しておく必要があります。
また、AIが事実とは異なる情報を生成するハルシネーションのリスクも忘れてはなりません。最終的なアウトプットは、必ず人間の目で確認するというプロセスが不可欠です。

▲「キーボードで打つより、音声入力のほうが5倍は楽」と語る田原氏。場所を選ばずAIと対話し、2万字超の事業構想をハイスピードに具体化していく。
田原:難しく考える必要はありません。まずは、部下に指示を出すのと同じ感覚でAIに投げ掛けてみることから始めてください。AIの基盤であるディープラーニングは、人間の脳を模して作られた技術です。そのため思考回路が人間に近く、時にうそをついたり、情報を与えすぎると忘却してしまったりするところまで、驚くほど人間に似ているのです。
例えば、次のような具体的なシーンで活用してみてはいかがでしょうか。
・1on1のシナリオ作成: 成果の出せていない部下を傷つけず、かつモチベーションを維持しながら課題を伝えるにはどう話すべきか。そのような相談をAIに投げ、ハラスメントに配慮したロールプレイングの相手をさせる。
・組織図のドラフト作成: 来期の戦略に合わせて組織図をゼロから書き直すなら、どのような形が理想か。背景情報を入力したうえで、複数の案を出させる。
・商談中の即時デモ作成: 顧客との商談中、要望を聞きながらその場でAIエージェントを動かし、5〜10分でデモ案を作り上げる。これにより、資料を持ち帰り数日かけて作成するコストを大幅にカットできる。
何でも構いません。まずは一歩を踏み出し、AIを動かしてみることが何より大切です。
田原:私は事業開発の際、ターゲット選定から参入戦略などを体系的に整理するマスターファイルをAIと共に作り込んでいます。
最初に行うのは、思いついたアイデアを思いつくままに音声で吹き込むこと。それをAIに整理させ、更に会議の議事録などを貼り付けて必要な要素を肉付けするよう指示します。最初は2万字ほどの荒削りな内容ですが、自分のこだわりを加えてAIとのやりとりを3回ほど繰り返すと、驚くほど精度の高い提案資料が出来上がります。
これをエンジニアチームに渡せば、わずか30分のミーティングでこちらの意図がすべて伝わるようになります。AIを介することで、属人的な「思考」が極めて高い精度で、かつハイスピードに言語化・共有される。この圧倒的な生産性の向上こそが、今の管理職が手に入れるべき武器なのだと実感しています。

田原:正直に申し上げて、日本全体でAIをマネジメントに活用できているといえる管理職は、まだ5%にも満たないでしょう。
特に中間管理職は、日々の管理業務に忙殺されるあまり、既存業務の最適化や新技術の開拓といった「探索」の活動ができていないことが多いです。気づいたときには自身の役割がAIに置き換えられ、時代に取り残された“浦島太郎”状態になってしまう。そんなリスクが現実に起こり得る時代です。
しかし、裏を返せば、AIを実務に組み込みチームの生産性を向上させた具体的な実績があるだけで、ハイクラス転職市場でも希少価値が生まれます。転職による年収アップを狙える可能性もあるでしょう。
田原:単に「AIを使っています」と伝えるだけでは不十分です。採用する側もまだAI活用を深く理解できている人が少ないからこそ、具体性をもって語る必要があります。
・どの業務を、どのようなロジックでAIエージェントに置き換えたのか
・それによってチームのKPIがどう変わり、定量的に何時間削減できたのか
・ハルシネーションやセキュリティへの配慮、継続的に利用できる仕組みをどう設計したのか
もし会社の制約でAIが実務で使えない環境であっても、例えば「プライベートで投資情報の収集や家庭の役割分担をAIで自動化した」など、「実践の跡」を語れる人は強いですね。環境を言い訳にせず自ら動く姿勢こそが、高く評価されるのです。
同時に、面接の場でこうした「AI活用の具体性」を深掘りされるかどうかは、求職者側にとっても重要なチェックポイントになります。質問の鋭さから、その企業の経営層がAI変革に対してどれほど本気で、かつ正しく理解しているかを判断する貴重な指標になるはずです。
田原:AIは魔法ではありません。しかし、使いこなすことで個人の能力を何倍にも拡張してくれる最強の補強パーツになってくれます。
これまでお話ししてきたとおり、AIを使いこなせるかどうかは、リーダーがいかに精度の高い「問い」を立て、アウトプットの真価を見極められるかにかかっています。AIという「優秀な部下」に任せられることはどんどん任せて、自分はもっと人間にしかできない領域、つまり「対人支援」や「戦略立案」にエネルギーを注いでほしいのです。
そのようにして仕事の本質に向き合えるようになれば、管理職という仕事は今よりもずっと面白くなるでしょう。まずは今日、自分専用のAIエージェントを作る一歩から。その小さな実践が、皆さんのキャリアに最強のレバレッジをかけてくれるはずです。
(取材・執筆:金子 茉由)

田原 眞一
株式会社スキルアップNeXt代表取締役
東京大学大学院新領域創成科学研究科修了(修士)。新卒でベンチャー企業に入社後、エンジニアとプロジェクトマネジャーを経験。その後、株式会社リクルートコミュニケーションズにて複数のAI案件に携わる。AI人材の教育事業を開始し、スキルアップAI(現:株式会社スキルアップNeXt)を創業。